三笠書房刊行予定書籍に関する質問状の送付について

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発達障害当事者協会からのお知らせ

 当協会は、株式会社三笠書房より4月24日に刊行予定の神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』について、発達障害者の尊厳を傷つける表現が含まれているとして、正式に質問状を提出いたしました。

質問状送付の背景

 本書籍は表紙および帯において、発達障害(ASDやADHD)を「困った人」として一括りに扱い、さらに目次では具体的に「【タイプ1 ASD】 Case 6 異臭を放ってもおかまいなし」「【タイプ2 ADHD】 Case 10 同僚の手柄を平気で横取り」などと記載されています。
 また、表紙デザインにおいては、ビジネスパーソンの中に擬人化された動物が描かれており、文脈から発達障害者を「言葉が通じない動物のようなもの」として表現していると解釈せざるを得ない内容となっています。

提出した質問状(内容)

 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 貴社におかれましては、出版文化の発展に多大なる貢献をされてきた実績を私どもは深く敬意を表しております。
  私どもは発達障害当事者および支援者で構成される団体として、貴社より4月24日出版予定の神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』に関して、深く憂慮する点がございますので、以下の質問をさせていただきます。
 本書の帯において、「困った人」の例としてASDやADHDなどの発達障害が明示的に列挙されており、さらに表紙のイラストと合わせて考えますと、発達障害者を「対応に苦慮する存在」「厄介な存在」として描写していると受け取られかねません。
 帯において、「困った人」の前に「愛すべき」と挿入されておりますが、このような表現は当事者が感じる不快感からすれば何のエクスキューズにもなっていないと考えます。むしろ、差別的表現を和らげるための表面的な修飾に過ぎず、本質的な問題を解決するものではありません。
  また、表紙のイラストにおいて、人間のビジネスパーソンの中に擬人化された動物が含まれておりますが、これは文脈からして「困った人」であるASDやADHDの人は言葉が通じない動物のようなものだというメッセージ以外に、受け取ることができません。
 特に、目次からの引用にあります「【タイプ1 ASD】 Case 6 異臭を放ってもおかまいなし」や「【タイプ2 ADHD】 Case 10 同僚の手柄を平気で横取り」といった表現は、発達障害に対する誤った理解と偏見に基づくステレオタイプを強化するものだと懸念しております。
 また、本書では発達障害の他にも、「疾患(自律神経失調症/うつ/更年期障害/適応障害/不安障害・パニック障害)」として、誰もが罹患しうる疾患を具体的に挙げ、それらを「困った人」と表現している点についても憂慮しております。
 発達障害は医学的に認められた障害であり、当事者は生まれながらにして脳の機能に特性があるとされています。そのような特性を持つ人々を一方的に「困った人」と表現することは、発達障害者への差別や偏見を助長する可能性があり、日本では障害者差別解消法が施行され、障害者への合理的配慮の提供が求められている中、本書の表現は社会的包摂の理念に反するものと懸念いたします。
 つきましては、以下の点について貴社のご見解をお聞かせいただきたく存じます
1. ASD、ADHD、精神疾患、更年期障害の方を「困った人」と捉えて出版することをコンプライアンス的に適切だとお考えでしょうか?
2.上記の障害や疾患を持つ人々を動物に例えるようなアートディレクションを適切だとお考えでしょうか?
3.ASDの人を「異臭を出す人」、ADHDの人を「人の手柄を横取りする人」という一方的な断定については、貴社の見解として適切だとお考えでしょうか?

 今後も多様性を尊重し、共生社会の実現に寄与される出版活動を期待しております。何卒ご回答を賜りますよう、お願い申し上げます。
 なお、大変恐縮ではございますが、出版日である4月24日までにご回答いただけますと幸いです。

4月17日19時29分追記

 上記書籍と質問状に関して、当協会の現在の状況についてお知らせいたします。
 当協会では、本件について出版社側に発売予定日の4月24日までのご回答をお願いしており、現在、回答を待っている状況でございます。
 本件につきましては、様々なご意見が寄せられていること、また、関連する情報が報道されていることも承知しており、状況を注視しつつ、慎重に対応を進めております。
 今後の対応につきましては、状況を鑑みながら検討してまいります。新たな進展がございましたら、改めて当協会ウェブサイトにてお知らせする予定です。
 本件に関する個別のお問い合わせにつきましては、誠に恐縮ながら、現在回答を差し控えさせていただいております。
 皆様からお寄せいただいた貴重なご意見やお問い合わせは、全て拝見し、今後の対応の参考にさせていただきます。
 多数のお問い合わせをいただいている状況下、個別にご返信することが難しい状況でございますこと、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。

今後の対応

 当協会は発達障害者の権利擁護と社会的理解の促進は当協会の重要な使命であり、今後も誤解や偏見を助長するような表現に対しては毅然とした姿勢で臨んでまいります。
 会員の皆様、そして発達障害当事者やそのご家族の皆様におかれましては、同様の事例を発見された際には、ぜひ当協会までご連絡ください。
 皆様からの情報提供が、インクルーシブな社会の実現への大きな力となります。

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