【開催報告】 (第3回)「発達障害当事者会フォーラム2018」in 広島

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開催概要

  • 行事名:「発達障害当事者会フォーラム2018」in 広島
  • 日 時:平成30年10月7日(日) 12:30~16:45
  • 会 場:広島県JAビル10階 講堂
  • 後 援:厚生労働省・広島県・広島市・(一社)日本発達障害ネットワーク 赤い羽根福祉基金助成
  • 参加人数:160名(スタッフ含む)
  • 来 賓
    • 発達障害を支援する国会議員連盟 副会長 山本博司議員
  • 挨 拶
    • 発達障害を支援する国会議員連盟 会長 尾辻秀久議員(事務局代読)
    • 一般社団法人日本発達障害ネットワーク 理事長 市川宏伸 氏(事務局代読)

第一部 「当事者会と社会のつながりをどう構築するのか」

基調講演 「大人の発達障害―ぼくらの中の発達障害―」

基調講演を行う青木省三 氏
基調講演を行う青木省三 氏
  • 基調講演
    • 公益財団法人慈圭会精神医学研究所所長 青木省三 氏

人は誰でも発達障害の特性を持っていますが、その特性が強く、社会生活に支障をきたす場合に診断を受けます。発達障害の診断や定義について説明を受けた後、以下のようなテーマについて講演がありました。

  • 当事者が発達特性にどう向き合うか?
  • コミュニケーションの困難さとは何か?
  • 折り合いをつけるとはどういうことか?
  • なぜ当事者同士が集まると衝突するのか?

支援とは、発達障害の程度が薄い(軽い)人が濃い(重い)人を助けることではないでしょうか。
最初は助けを求めて相談することから始まりますが、やがて助けられた人が助ける側になる。
このように、助け合いの「相互扶助」に近いものになるのではないか。
そして、支援者も支援するだけでは疲れてしまうため、支援者を支援する体制も重要です。

大人の発達障害者が抱える生きづらさや、当事者会を運営する側の苦労に対する解決のヒントとなる講演でした。

ミニシンポジウム

3名のパネリストによる説明の様子
3名のパネリストによる説明の様子
  • 進行役
    • 山口学芸大学教育学部講師 御旅屋達 氏
    • 厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 障害児・発達障害者支援室発達障害施策調整官 田中尚樹 氏
    • (一社)発達・精神サポートネットワークNecco 金子磨矢子 氏
    • NPO法人DDAC 代表 広野ゆい 氏

第一部の後半では、御旅屋先生の進行のもと、青木先生、田中尚樹氏(厚生労働省)、金子磨矢子氏(Neccoカフェ・東京都)、広野ゆい氏(NPO法人DDAC・大阪府・兵庫県)によるミニシンポジウムが開催されました。

まず、平成30年度から国で新たに予算化された発達障害のピアサポート事業(発達障害児者及び家族等支援事業)について、先駆的なモデルとして活動している2名の当事者から説明がありました。

金子氏は、ピアサポート事業が当事者同士のサロン的な「場の提供」であるとして、日本で最初に発達障害の常設居場所「Neccoカフェ」を作った経緯や取り組みについて紹介しました。

続いて、NPO法人DDACの広野氏からは、ファシリテーター養成研修(人材育成研修)費用もピアサポート事業で実施できることから、発達障害の当事者会運営研修会を日本で最初に取り組み、全国に自助グループ活動を広めていった取り組みについて紹介がありました。

最後に、厚生労働省から新規事業のピアサポート事業(発達障害児者及び家族等支援事業)についての制度説明があり、自治体での取り組み促進への期待が述べられました。

続いて、青木先生の基調講演と2つの先駆的モデル事例、そして国の新規事業を受けて、当事者会を支援者がどのように支え、つながりを持つかについて、それぞれの立場から意見が述べられました。

広野氏は、ピアサポートが制度化されたことに感動していると述べました。支援者が当事者会の活動をよく知らないため、まずは知ってもらうことが大切だと強調しました。また、当事者会が単なる傷のなめ合いにならないようにすることが重要だと感じているそうです。
広野氏は、大阪ボランティアセンターで支援を受けた経験を紹介し、支援者と対等な関係を築くことの重要性を述べました。

金子氏は、発達障害は人口の1割と言われていますが、むしろ発達障害の傾向が全くない人が1割程度であると感じていると述べました。Neccoカフェでは、支援ではなくピアサポート(仲間同士の支え合い)を行っており、お互い様の心で助け合うことが大切だと強調しました。

田中調整官は、発達障害の特性に対する支援だけでなく、広報活動や運営上のトラブルに対する相談など、別の形の支援も必要だと述べました。当事者会のトラブルが起こった場合、発達障害者支援センターや厚生労働省が支援できることがあると感じているそうです。

御旅屋先生は、「当事者」という言葉が社会の隅に追いやられる原因になることがあると指摘しました。社会構造が変わることで、誰もが当事者になりうるため、定型と言われる人も当事者の立場に立つことが必要だと述べました。

青木先生も、当事者同士が集まると特性の違いによる衝突が起こるため、多様性を認め合う気持ちが大切だと強調しました。

基調講演や先駆的な取り組みをしている東京・大阪の当事者からのメッセージは、多くの人にとって参考になったのではないでしょうか。
また、ピアサポート事業を進める上で、当事者会活動を地域行政や社会全体に知ってもらうためのフォーラム活動に対する国会議員連盟や厚生労働省のバックアップは非常に重要であり、感謝の意を表したいと思います。

3名のパネリストによる意見交換
3名のパネリストによる意見交換
総括コメントを述べられる御旅屋先生
総括コメントを述べられる御旅屋先生

第二部 「これからの当事者会活動を考えるフォーラム」

  • 進行役
    • 広島県発達障害者支援センター センター長 西村浩二 氏
    • 東雲メンタルヘルス研究室(日本大学精神医学教室臨床准教授)大賀健太郎 氏
  • 進行補助
    • 発達障害当事者協会 代表 新孝彦 氏
  • パネリスト当事者会
    • ついんくる(広島県福山市) 代表世話人 三島啓 氏
    • ぽっぽカフェ(広島県広島市)代表 小西知子 氏
    • どろだんごの会(岡山県倉敷市)代表 瑠璃麻衣子 氏
    • 山陰スモステの会(島根県松江市・鳥取県境港市)代表 難波寿和 氏
    • ワンピース(愛媛県松山市、JDD-net代議委員団体)代表 利田潤 氏
    • オーティの会(徳島県徳島市、アスペエルデ系列)代表 濱田正子 氏
    • NPO法人共に生きる(大分県大分市)代表 江藤裕子 氏
    • 成人発達障害当事者グループSierra(熊本県熊本市)代表 大森祐介 氏

第二部では、これまでと同様に当事者同士の活動を考えるフォーラムを開催しました。
今回は広島での開催だったため、7月の豪雨災害の影響を受けて、従来の質問に加えて「災害時に当事者が何に困ったのか?」という点もディスカッションに盛り込みました。

中国四国・九州から8つの当事者会リーダーが集まり、意見交換を実施した
中国四国・九州から8つの当事者会リーダーが集まり、意見交換を実施した

質問の内容

  1. 当事者会として発達障害者支援センターをどのような存在と捉えているのか
  2. 当事者会として発達障害者支援センターに連携をしたいか、したくないのか
  3. なぜ当事者会を始めようと思ったのか(きっかけ)
  4. 専門家は、当事者だけでは運営は難しい(支援が必要)と言っているが、当事者会としては、どう考えているのか(率直な意見を下さい)
  5. 当事者が困っている点は何ですか(茶話会等で話題にあがることを教えて下さい)
  6. 当事者会を運営していく上で、実際にどのような工夫をされていますか、円滑に運営するコツなどを教えて下さい運営上の苦労をふまえて、教えて下さい)
  7. 当事者会に必要な支援は、どんな支援を望んでいますか、また発達障害者支援センターを含めた支援機関に望むことは何ですか。
  8. 中国四国地方では7月に大きな豪雨災害がありました。九州では2年前に熊本地震があり、熊本・大分両県で大きな被害が出ました。災害時に発達障害のある当事者が欲しい配慮や支援があったら教えてください。

発達障害者支援センター等、支援者との連携や社会資源について

  • 島根県の自立支援協議会のメンバーに入れてもらっている。そのため発達障害者支援センターとヒアリングができている。
  • 当事者会を始める前から、支援センターを利用していたため、会で解決できない問題をセンターに相談出来ていた。センターからも当事者会に来た人をつないで貰える。
  • 個人の当事者が「活動しています」と支援センターに働きかけるのはハードルが高いが、複数の団体やスタッフとセンターがつながり、支援を受けていくことは大切だと思う
  • 発達障害者支援センターの中に、当事者が集まれるフリースペースを作って欲しい。
  • 徳島県のセンターとつながっていて投薬などは医師、ピアサポートなどを求めている人はうちの団体、というように支援者の方で使い分けしてつないでくれている。

当事者会の運営や対人トラブルなどについて

  • 参加ルールをどうしているのか? 会をオープン(誰でもOK)にするのか、クローズ(会員制)にするのかについて議論が出た。
  • 鳥取県や島根県は人口が少ないのでオープンにすると近所に知れ渡るので、クローズにしている。岡山県などは場所の提供だけして最低限のルールだけ設け開催をしている。(人口や地域性が問題になる)
  • 会の中で、個人的な相談は一切受けていない(自助共助の域を超える)ルールは茶話会での「場」の安全を心がけている。
  • 営業の勧誘や宗教の勧誘などが起こって問題が起きたので、会の中では勧誘行為は一切しないようにアナウンスしている。
  • 経理の得意な人、ブログの得意な人など得意分野で担当を分けて、お金の管理や運営をみんなで頑張っている。お金の管理はやっぱり大変。
  • カフェのオーナーが場所貸しを OK してくれたので、お店のオーナーが参加費を集め、苦手なお金の管理をせずに済んでいる。

災害時の話題と地域ネットワークについて

  • 避難指示が出ていたのに、避難所に行かなかった。(障害者だから配慮してといっても近所の目が怖い)
  • 避難指示の報道が、曖昧過ぎて分かりにくい。ダムの貯水率100%等具体的に言われると危険度が分かる。
  • 岡山の真備町避難所が配慮が良かった。(パーティションで仕切る)
  • 熊本地震の時に、医療機関が閉まっていてお薬の手配に困った。
  • 障害特性で、炊き出しや配給などに並べない。
  • 当事者協会などで当事者会に対して研修をし、当事者会の品質保証(JISマークのような認証制度)を将来的に考えて欲しい。
  • 当事者であり支援者だったので、行政機関の担当者をたまたま知っていた。その関係で支援協議会にも入れたが、多くの当事者は行政の担当者も組織も知らない。当事者会に対して行政機関とのコディネイトをして貰えるような人や機関が欲しい

グラフィックファシリテーション

音声によるディスカッションを理解しづらい特性がある当事者が多いため、今回も話の内容を可視化するためにグラフィックファシリテーションを用いました。
板書は、凸凹フューチャーセンター代表の鈴木紗代氏にお願いしました。

「第一部(基調講演)」のグラフィックファシリテーション

青木先生の基調講演などのグラフィックファシリテーション
青木先生の基調講演などのグラフィックファシリテーション

「第二部(ミニシンポジウム)」のグラフィックファシリテーション

まとめ

第二部終了後には、支援者や当事者会をよく知る学識経験者から講評をいただきました。
まず、発達障害者支援する国会議員連盟副会長の山本博司参議院議員から講評がありました。

発達障害者を支援する国会議員連盟副会長の山本博司参議院議員による講評
発達障害者を支援する国会議員連盟副会長の山本博司参議院議員による講評

その後、鳥取県発達障害者支援センター長の川口栄先生、岡山県発達障害者支援センター主任の今出大輔先生から感想と講評をいただきました。
また、神戸工芸大学准教授の岡村光浩先生、岐阜保健短期大学講師の稲葉政徳先生からも、当事者会役員として支援する立場から講評をいただきました。
最後に、大阪府発達障がい者支援センター長で全国自閉症者施設協議会会長の松上利男先生から総括コメントをいただき、閉会しました。

なお、これまでのフォーラムでも時間の制約があり、事前にいただいた質問にすべて回答することができませんでした。そのため、3月末を目標に、これまでの当事者会からの意見やフォーラムに参加した支援者の方々(国立リハビリテーションセンター発達障害情報支援センター担当官、発達障害者支援センター長など)の意見、そしてフォーラム後に実施された地域ネットワークづくりと当事者会の安定運営に向けた研修会の取り組みをまとめた冊子を作成する予定です。

この冊子は、都道府県や政令指定都市の発達障害者支援センターなどに配布し、広く活用していただくことで、当事者会支援と地域ネットワークづくりに役立ててもらう予定です。

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