開催概要
- 行事名:「発達障害当事者会フォーラム2017」
- 日 時:平成29年7月17日(月・祝) 12:30~16:30
- 会 場:北とぴあ ペガサスホール・ペガサスホールリハーサル室
- 後 援:厚生労働省・東京都・(一社)日本発達障害ネットワーク アステラス製薬助成
- 参加人数:240名 (スタッフ含む)
- 来 賓
- 発達障害を支援する国会議員連盟 事務局長 高木美智代 議員
- 一般社団法人日本発達障害ネットワーク 理事長 市川宏伸 氏
- 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 障害児・発達障害者支援室 日詰正文 氏
第一部「発達障害当事者同士の活動支援の在り方に関する調査報告会」
- 報告者
- 東京大学社会科学研究所 助教 御旅屋達 氏
- 山梨英和大学人間文化学部 教授 小林真理子 氏
- 聖学院大学人間福祉学部 教授 相川章子 氏
平成28年度厚生労働省障害者総合福祉推進事業指定課題15「発達障害当事者同士の活動支援の在り方に関する調査」の事業報告会を行いました。
報告は、課題15の①「先行実践事例の調査分析」について、本事業で調査分析を担当した東京大学の御旅屋先生にお願いしました。
都道府県・政令指定都市の発達障害者支援センターに調査票を配布し、一次調査を実施しました。地域の当事者会に対する意識調査や、成人期の発達障害者に対する支援状況を調査しました。
二次調査として、支援センターから紹介された当事者会に調査票を配布し、全国規模の調査を行いました。
調査報告については、調査報告書をご覧ください。
課題15の②「望ましい当事者支援のあり方についての関係者の意見収集、分析」については、行政、業界団体、支援者、医師、当事者会関係者、研究者の中で指導的な立場にある方を7名選定し、書面とヒアリングにより意見収集を行いました。
今回の報告会では、山梨英和大学の小林先生と聖学院大学の相川先生に「当事者会の必要性」についてご報告いただきました。
第二部 「これからの当事者会活動を考えるフォーラム」
第2部のフォーラムでは、今回の調査結果を踏まえて、これからの当事者会活動のあり方を考えるために、ASD、ADHD、LD、TT(トゥレット)、ST(吃音)といった発達障害の代表的な5つの症例の当事者が一堂に会するという画期的な試みが行われました。
このフォーラムにより、「発達障害当事者同士の活動支援の在り方に関する調査」で質問した内容に基づき、実際に当事者会でどのような工夫や実践がなされているのか、当事者会が支援者(発達障害者支援センターなど)に対してどのような意識を持っているのかについて、「生の声」を聞くことができました。
パネリストの当事者会の方々の率直な意見が、多くの参加者の共感を呼びました。
取材を兼ねて参加した精神障害者向けの情報サイト運営者は、「発達障害の種別や多様性が一度に分かる斬新な試みだと思う」と感想を述べていました。
- 進行役
- 東京都発達障害者支援センター センター長 山﨑順子 氏
- 日本大学精神医学系 講師 大賀健太郎 氏
- パネリスト
- ほんわかカフェ (Neccoカフェの当事者会) 加茂谷洋子 氏
- (一社)東京言友会 運営委員 青木正道 氏
- 発達障害ピアサポート サピア 世話人 八巻知賀子 氏
- 千葉県発達障害当事者会CHT会 運営スタッフ 間坂浩一郎 氏
- DX会 (NPO法人EDGE成人部会) 事務局 柴田章弘 氏
- つむぎ発達障害障害当事者会 運営スタッフ 野中麻衣子 氏
- 東京・多摩「大人の発達障害当事者会」 代表 滝口仁 氏
- NPO法人日本トゥレット協会 当事者会員 堀川充 氏
- みどる中高年発達障害当事者会 事務局長 山瀬健治 氏
- アスペ・発達凸凹の集い「優しい時間」 代表 横山小夜子 氏
- 足利こころのピアサポート「ゆいまーる」 代表 影山香菜 氏
- 発達障害当事者協会 代表 新孝彦 氏
パネリストの当事者会は、関東地区で「発達障害当事者同士の活動支援の在り方に関する調査」にご協力いただいた団体に打診し、了承を得られた団体の方にご参加いただきました。
なお、アダルトスペクトラムネットワーク(NPO東京都自閉症協会)は、当事者スタッフが世田谷区受託事業の事業報告会と日程が重なってしまったため、登壇はありませんでしたが今井理事長が会場に来られました。
質問の内容
- 当事者会として発達障害者支援センターをどのような存在と捉えているのか
- 当事者会として発達障害者支援センターに連携をしたいか、したくないのか
- なぜ当事者会を始めようと思ったのか(きっかけ)
- 専門家は、当事者だけでは運営は難しい(支援が必要)と言っているが当事者会としては、どう考えているのか(率直な意見を下さい)
- 当事者が困っている点は何ですか (茶話会等で話題にあがることを教えて下さい)
- 当事者会を運営していく上で、実際にどのような工夫をされていますか。円滑に運営するコツなどを教えて下さい(運営上の苦労をふまえて、教えて下さい)
- 当事者会に必要な支援は、どんな支援を望んでいますか。また発達障害者支援センターを含めた支援機関に望むことは何ですか
質問事項は、進行役の山﨑先生、大賀先生、事業委員の御旅屋先生、成重先生(日本医科大学)と相談して決定しました。
事前に当事者会に質問事項を渡した上で、当事者会の意見として発表していただく形を取りました。
結果的に、当事者会の「生の声」を行政や自治体、支援者の皆様に広く知っていただき、今後の成人発達障害者支援につなげる機会となりました。
講評
報告会とフォーラム終了後には、2名の有識者からご講評をいただきました。
日本精神神経学会理事の紫藤昌彦先生(発達障害当事者協会スタッフの主治医)は、「精神科の学会では『発達障害』というテーマは立ち見が出るほど大勢の人であふれかえり、非常に関心が高まっているが、『当事者の声』を直接聞いている医師や支援者はおらず、こういった機会が重要」と感想を述べられました。
また、事業協力者として「望ましい当事者支援のあり方について関係者への意見収集」へ当事者会を支援する立場としてヒアリングにご協力いただいたNPO法人日本トゥレット協会の有澤直人会長は、「トゥレット症候群のように一般的でない症例でも、ご挨拶で高木先生がトゥレットの話を取り上げてくださったように、様々な発達障害の特性を知っている人が広めていくことが大切ではないか」とご感想を述べられました。
なお、第1部の終了時に御旅屋先生から総括的なコメントをいただきました。
「就労支援は比較的行われているが、当事者会に対する支援があまり行われていない」「支援センターが行っていないサロン的な活動やピアサポートを当事者会に当事者は求めている」とお話がありました。
講評をいただいた有澤先生は、当事者会会員(参加者)のニーズに応えるために、財政支援や人的支援を望むとヒアリング調査でも述べられており、第1部の報告にもあった「当事者会」に対する行政や支援者へのさらなる支援を当事者会としても望みたいと述べられました。
ご来賓・関係者の挨拶
高木美智代議員からは、昨年度10年ぶりに発達障害者支援法が改正されたこと、改正発達障害支援法では縦横の連携が重要であること、発達障害が分かった時から成人期・高齢期に至るまでライフステージに沿った支援が盛り込まれている点についてご説明いただきました。
事業協力者として関わった(一社)日本発達障害ネットワークの市川宏伸理事長より「当事者が団結して声を上げていく重要性」についてお話をいただきました。
主催者を代表して(一社)発達・精神サポートネットワークの金子磨矢子よりご挨拶があり、支援法改正に関して発達議連の方々をはじめ関わった全ての方々に深く感謝すると述べました。
事業受託元担当の厚生労働省の日詰専門官より改正発達障害者支援法の概要や本事業の実施に至った経緯についてお話をいただきました。
第二会場
第二会場では、当事者会の紹介コーナー(パンフレットやチラシ等の配布)、家族会(NPO東京都自閉症協会、アスペの会東京、NPO楽の会リーラ)による発達障害、ひきこもり等の相談コーナー、就労支援機関による就労相談コーナーを設けました。
報告会でも就労支援を望む声が一番多かったですが、多くの当事者が就労支援機関のブースに足を運びました。参加した就労支援機関の方は、「パンフレットが予想以上に配布でき、想定以上の相談者が来ました。このような当事者と就労支援機関をつなぐイベントが開催されれば、また参加したい」という声が多かったです。
また、ロビーでは近隣の練馬区にある障害者関係の専門書店に臨時出展をお願いし、発達障害に関する様々な著書を販売していただきました。
ご来賓の高木議員からご紹介のあった「改正発達障害者支援法の解説」などはロビーにて販売され、多くの支援者が手にしていました。また、今回の事業委員である宮尾益知先生の成人発達障害者向けの書籍など、多数の書籍を当事者が買い求めました。
発達障害関係の学会など支援者向けイベントでは、発達障害関連の書籍販売が行われていますが、当事者向けのイベントでは過去に例がありませんでした。
これまで大規模なイベントは「世界自閉症啓発デー」を除き、ほとんどが支援者向けのものでした。
しかし今回の当事者向けのイベントでは、多くの当事者がPRコーナーで当事者会や就労に関する情報収集をしていたため、当事者に必要な情報が集約できる大きなイベントは今後も必要だと感じました。
まとめ
今回のフォーラム開催を通して、成人当事者の3つのニーズが見えてきました。
- 成人当事者は、悩みの共有や情報集めのために「当事者会」に来ます。「当事者会」はサロン的活動やピアサポート、当事者同士の生の情報交換の場です。当事者会が持続するためには、多くの支援が必要です。
- 多くの当事者が就労支援機関のブースを訪問しました。当事者会調査でも就労支援が最も必要とされ、当事者が就労の情報を求めていることが明らかになりました。そのため、当事者と就労支援機関をつなぐイベントが必要です。
- 書籍販売コーナーが非常に人気でした。多くの当事者が「発達障害」に関する情報を求めているようです。
乳幼児期や学齢期に比べて、成人当事者に対する支援はまだ未成熟です。しかし、成人当事者会が団結して一堂に集まり、課題を話し合い、支援者や関係機関が当事者に有益な情報を提供することも「成人期発達障害当事者支援」の重要なリソースではないかと感じました。
今回のフォーラム開催にあたり、発達障害の支援を考える議員連盟、厚生労働省、日本発達障害ネットワーク、東京都の多大なるご協力に深く感謝いたします。